自らのバロックを求めて彷徨い歩く物語『BAROQUEシリーズ』がツボだった

 

 『BAROQUEシリーズ』とはセガサターンより発売された『BAROQUE』及び関連作品の総称である。

 

 

本稿ではPS版である『BAROQUE~歪んだ妄想~』とその前日譚である『BAROQUE SYNDROME』について扱う。尚これ以降上記の作品の表記をそれぞれ『歪んだ妄想』と『シンドローム』とさせて頂く。

 

 

 BAROQUE SYNDROME

 

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その年、異常な事件が多発した。

イジメを行った本人が、自分がしてきたことを、されたこととして遺書を書き、自殺した少年……。有名ミュージシャンとの秘密の恋愛に疲れたという妄想から、ノート3冊分の告白を残して自殺した少女……。こうした少年少女の自殺が73件も報告された。

どう調べても自殺者同士に関連はないが、唯一彼らに共通していたのは、強烈な「歪んだ妄想」を遺していることだった。

こうした現象について、あるコメンテイターはこう答えた。
「彼ら自殺者の妄想は、荒唐無稽なようでいて、不気味なほど生理的で圧倒される説得力がある。バロックだ。」

バロック---はるか昔に流行した、壮大で華麗な様式を、現代の自殺者の物語に見立てた言葉が、新聞記事の見出しとして踊った。
バロックは爆発的に広がっていった。動機が意味不明の犯罪は、すべて「バロック型」として括られるようになった。

そして、バロックを商売にする人間が現れた……。

(BAROQUE SYNDROME公式サイトより引用)

 

 

 

物語は『バロック屋』を営む主人公(金沢キツネ)の元に一人の『バロック症候群』を患った少年が訪ねてくる所から始まる。

バロック症候群とは簡単に言えば妄想に特化した統合失調症患者のような存在である。そんな自らの妄想に支配される病が若年層を中心に広まりつつあった。

彼らを相手取るバロック屋の仕事とは漠然とした不安を抱えてはいるが想像力のないバロック症候群の患者に「あなたは特別である」という物語を与えてあげることである。

そのようなゼロ年代特有の当時としては現代的な精神病をモチーフにした世界観をベースに、天使の羽を背中に身に着け、神は我々が守らなければならないと主張する宗教団体である『マルクト教団』や、『異形』と称される人を喰う化け物の噂、大地震や噴火、津波といった天変地異が続くなど、世紀末の退廃的な雰囲気が色濃く反映されている。

そんな世界で主人公(金沢キツネ)はひょんなことから行動を共にすることになった生涯プーを自称する少女(渡辺ルビ)と共にある事件に巻き込まれていく、というのが本作の大まかなストーリーである。

 

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異形、天使、感覚球、タランテラのメロディなど本作に登場する数々の不可解なキーワードも魅力の一つである。

 

 

ゲームシステムは至って普通の”選択肢によってルートが変わっていくADV”で特に語ることはない。傑作ADVである『428~封鎖された渋谷で~』のように選んだ選択と選ばなかった選択によって緻密なパズルのように組み合わさることもない。エンディングが5つ用意されているが、全てのルートを辿ったとしても、判明する謎もあるが殆どの謎は分からず終いである。

つまるところADVとしての出来は並レベルある。それでも上記の引用文を読んで心に燻ぶられるような思いを少しでも感じた人には是非プレイしてほしい。例えばバロック症候群に対して話す金沢キツネと渡辺ルビの会話に以下ようなものがある。

 

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 こんなやり取りは今でこそ平然と行われているが、20年前にこれをゲームに落とし込めるのはかなり先鋭的な切り口だといえる。

そんな心に残るようなやり取りの他、相棒的ポジションである渡辺ルビがだいぶかわいいので興味のある方は是非プレイしてみてほしい。スマートフォン版もあるので手を出しやすいはずだ。

 

 

 

 

 

 

 BAROQUE ~歪んだ妄想~

 

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 上記のシンドロームの項目において殆どの謎は分からず終いであると述べた。本稿の序文にも乗せたがシンドロームは歪んだ妄想の前日譚にあたるスピンオフ作品である。それならば本作をプレイすれば多くの謎が分かるのでは? と思い立ち早速PSアーカイブスでダウンロードした。

ADVであったシンドロームに比べて歪んだ妄想の方はなんと3D形式のリアルタイムローグライクだった。

 ゲームシステム自体は斬新で面白い。アイテム欄などを開いているとき以外はリアルタイムでゲームが進行するので視界を切り替えてる間にも攻撃は受けるし、敵に囲まれたりするとかなり動揺する。そのためなのか、風来のシレンシリーズなどに比べると理不尽な敵は少なく、良いバランスで死んだりクリアしたりが出来た。

 

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ゲーム内では異形と呼ばれる敵と戦闘を繰り返すことになる。

非常にグロテスクな見た目をした彼らだが異形という単語はシンドロームにも使われており、世界観の繋がりを如実に感じさせる。

 

 

ゲーム内容は神経塔と呼ばれる施設をひたすらに下っていくことになる。ゲームの進行具合によって最下層の位置が下がっていく仕様で、進行するためには様々なフラグを回収していく必要がある。そのためには何回も死に、何回も塔を下らなければならない。

主人公は記憶喪失であり、塔の目の前で出会った上級天使の言い渡しにより塔を下ることになる。このゲームは一度も死なないでクリアすることも可能だが、死ぬことにより見えてくる謎もあるので、いい感じに死にながらクリアするのがシナリオを読み解く上では適切であるといえる。

 

 

 

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 塔の中には異形以外にも様々な存在がいる。その中でも前世?で主人公と恋仲であったような発言を示唆する少女アリスは物語を読む解く上で非常に重要な存在のように思える。

 

 

 

しかしながら、結局のところ本作をクリアしてもシンドロームの謎が完全に解けることはなかった。

 私は本作の主人公をバロックシンドロームの主人公である金沢キツネであると思い込み、彼に好意的な感情を抱いているアリスを渡辺ルビであると仮定した。

この説はおそらく、作品を隅から隅まで読み解けば間違いであることが分かるだろう。

けれども、誰がなんと言おうとも私の中ではそれだけが確固たる真実である。

 断片的に与えられた情報を意訳し、自らの物語――つまり自らのバロックに仕立て上げることこそが本シリーズの醍醐味だといえる。

ダークな世界観や、ゼロ年代特有の退廃的な世界観が好きなプレイヤーには是非遊んでほしいシリーズだ。