平成最後のserial experiments lainである『her story』について話す

 

 

1998年に発売された『serial experiments lain』に課せられた使命はゲームとプレイヤーの間に立ちはだかる壁を極限まで薄くすることだった。そして開発者はそれを見事やってのけた。極めて単純な方法で。彼らは我々の脳をハックしたのだ。

serial experiments lain』はそれ自体では何も意味も為さないノイズの断片をまき散らすと、それをプレイヤーの脳内で一つの物語として再構築させた。それは紛れもなく現実への介入であり、侵食に他ならない。そうして脳をハックされた我々は『lain』を神として崇め、今もワイヤードの深淵を彷徨っている。

 

 

 

 

『her story』というゲームの話をする。

話は変わるが『her story』というゲームについての話をする。プレイヤーは(理由は分からないが)ある女性が関わった事件について調べている。しかしながら我々が利用出来るのは警察の取り調べの様子を記録したデータベースしかない。

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このデータベースはキーワードを入力するとそれに該当する発言を行ったビデオが検索出来るシステムになっている。

ゲーム開始時は上記の画像のように「殺人」というワードが検索欄にすでに入力されている。

それをいくつか観ていくと「サイモン」という人名を話す映像が見つかるだろう。

 

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「サイモン」とはいったい誰なのか? なぜ殺されているのか? この女性との関係はなんなのか?

そういった疑問は次に「サイモン」というワードを検索して出てきた映像を見れば解決する。しなくてもそこには次に進むためのワードが用意されているだろう。それを順繰りに追っていけば我々が何故このデータベースを見ているのか? という疑問が断片的に見えてくるようになる。

 

 

このゲームのエンディングは一定数のビデオを視聴し終えるとクレジットが流れるという非常に簡素なものになっている。

『her story』が我々に与えてくれるものは断片的な事情聴取映像以外に何もない。しかし、そこからプレイヤーの頭の中で再構築される物語は『serial experiments lain』が最高のゲームであったのと同じように最高だ。これ以上無いほどにグラフィックが進化を遂げている昨今のゲームシーンだが、本作のようにゲームという枠を飛び越えて行われる原体験に勝るリアリティはないと僕は考えている。

ノベルゲームを愛するプレイヤーはもちろんのこと、それ以外のプレイヤーにも手に取ってほしい一作だ。