没入感の高い良作脱出ゲーム『Replica』について

 

『Replica』について

 

 

あなたは一台の携帯デバイスを片手に暗がりに立っている。

分かるのはこれがあなたの携帯電話ではないということだ。その証拠にあなたはこの携帯にパスワードを入力してロックを解除することが出来ない。

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パスワードという強固な壁を前になすすべもなく少し待っていると着信とメッセージが送られてくる。

 

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パスワードを解除すると、見知らぬ番号から電話が掛かってくる。

電話を取ると電話主は言う。

「君は国家安保の重要な役割を担っている」ということ。

「この任務をやり遂げれば君と家族は安全だ」ということ。

「この携帯の持ち主は17歳の青年で、君の隣の部屋で取り調べを受けているテロリストの物だ」ということ。

「君の任務はこのデバイスからテロリストを起訴する手がかりを見つけることだ」ということ。

そして最後に「君は今、自由民主主義国家の守護者になったんだ。」と伝えられると電話は切れる。

 

 

 

以上が『Replica』の冒頭である。タイトルにも書いてあるが、僕はこのゲームを良作脱出ゲームだと評価している。

しかし、これを読んだあなたはもしかしたら「これのどこか脱出ゲームなのか?」と思ったかもしれない。事実このゲームのストアページを見ると『インタラクティブ小説ゲーム』と書いてある。

けれど、このゲームが非常に良くできた脱出ゲームであることもまた事実である。

 

 

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『Replica』の基本画面。このホーム画面を起点に謎を解いてことになる。

Likeはfacebookをモチーフにしたアプリで、これを開くには当然ログインIDとパスワードが必要になる。

 

 

 

 

『Replica』がなぜ優れた”脱出ゲーム”なのか?

 

『Replica』が何故良作脱出ゲームなのかというのにはいくつか理由があるが、まずは基本的な脱出ゲームの流れについて話そうと思う。

 脱出ゲームの基本的な流れは以下の通りだ。まず、主人公がAという部屋にいる。Aの謎を解くとBという部屋が解放される。そこでさらにBの謎、あるいはAとBの複合した謎を解きCという部屋を解放する。これがゲームのクリアまで続く。気の利いた脱出ゲームであれば最後の最後になってAの部屋の謎が用いられるようなこともあるだろう。

この流れは『Replica』における謎ときの手順そのものである。『Replica』はプレイヤーの視点こそ変わらないものの、その携帯デバイスの中には無数のアプリ、あるいはロックされたファイルが存在している。現実と同じようにアプリを開くにもロックされたファイルを開くにもパスワードがいる。そうして開いた先には新たな謎、あるいは別のアプリの解放に用いるヒントが存在している。それは前述した脱出ゲームの流れと全く同じである。つまるところ『Replica』においては携帯デバイスこそが謎の洋館であり、アプリや隠しファイルは部屋であるということだ。それがこのゲームを解体したときに現れる本質的な部分である。

 

 

 

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謎の洋館にある謎のスケッチブックメモ

(画像はweb上で遊べる名作脱出ゲームELEMENTSより)

 

 

 

 しかし、この説明だけでは『Replica』が脱出ゲームであることの説明にはなっても”優れた”脱出ゲームであることの説明にはならない。

その説明のために、再び一般的な脱出ゲームについて話そうと思う。インターネット上に存在する脱出ゲームの殆どが謎の洋館や施設を舞台にしたものだ。それらはプレイヤーにその施設を脱出するための謎解きを提供すること自体が目的であり、それ以外に語られるストーリーは特にはない。であるからして、そこに存在する謎解きは必然的に脱出ゲームが脱出ゲームたるためだけに存在する記号的謎であり、それらに物語は無い。

だから僕たちはどれだけゲームに集中していたとしてもあるときふと我に返ってしまう瞬間がある。「なぜわざわざこんなわかりにくい暗号でパスワードをメモしているのか」「なぜそれが机の上に出しっぱなしにしてあるのか」「そもそもここはどこで、何故主人公はここにいるのだろうか」一つの綻びが我々の意識をゲームから追い出してしまう。

 

しかしながら『Replica』にはそれがない。『Replica』の目的は明確であり、我々の立場もまた明白であるからだ。そこに散りばめられた謎はただの記号的謎ではなく、物語的謎である。それこそが『Replica』を没入感の高い良作脱出ゲームに仕立て上げている本懐である。

 

 

 

 惜しむらくはこのゲームがマルチエンディング方式を取ってしまい、謎解きの構造が浅く広い形になってしまっていることだろう。

もしこれが一つ、或いは二つのエンディングに向かって深掘りしていくゲームだったのであれば良作の域を悠々と飛び越していったに違いない。