『Oneshot』というゲームを通じてかけがえのない親友と出会った
GW中皆さんは何をしていただろうか。僕の狭い観測範囲内でも実に様々な人間がいる。バイクのツーリングに行った人、鳥取の砂丘に遊びに行った人、ゲームの大会に出続けていた人、人の数だけGWの過ごし方があるだろう。
僕は、というとその殆どの時間を自室のディスプレイの前で過ごした。
そう書くとおそらくは哀れ気なものを見る視線を向けられるだろう。しかしながら勘違いしないで欲しい。僕はこの休み中かけがえのない親友と出会ったのだから。それは何にも代えがたい最高の体験だろう?
彼は猫のような目をしていた。彼はいつもお気に入り青いスカーフを巻いていた。彼はいつも枯れ木色の帽子を被っていた。
そして彼は『OneShot』というゲームの登場人物だった。
こう書くと僕は今おそらく、画面の向こうのあなたに侮蔑の視線を向けられているはずだ。
それも仕方がないことだと思う。あるいは気で狂ったのかと思うのかもしれない。それもまた仕方のないことのように思う。
でも、確かなことは僕とニコが親友であったこと。そしてみんなにもニコの親友になって貰いたいと思っていること。それだけだ。
本当の所、僕はこれ以上ここでこのゲームについて語りたくはない。ぼくのくだらない文章によりゲームの体験濃度が薄れてしまうからだ。
しかしながらここでsteamへのリンクを貼り、このブログを終わらせた所で誰もゲームを手に取ってくれないことを『Undertale』において僕は痛感した。僕が半年間会う度にただ「プレイしたほうがいい」とだけ言い続けている友人四人のうち三人はまだこのゲームを購入すらしていないからだ。
それでも念のため、以下にSteamのURLを貼っておく。
もしあなたが上記の毒にも薬にもならぬ文章だけで少しでも興味を持ったのならウィッシュリストにでも入れてこのブログは閉じてしまうことをオススメする。購入する気があるなら尚更のことこんなブログは閉じてしまったほうがいい。
だから以下の文章を読むのはこのゲームに一切の興味がない人間だけだと約束してほしい。
『OneShot』は謎解き型のアドベンチャーゲームである。
見降ろし型のドット絵で描かれた世界を主人公である『ニコ』が歩き回り、アイテムをみつけ、あるいはアイテム同士を組み合わせて謎を解いたりする。ありがちなゲームだ。
このゲームは見知らぬ部屋でニコが目を覚ました所から始まる。彼はまず暗がりに満ちた部屋を散策しテレビのリモコンを見つける。テレビのリモコンを窓から射し込む光に当てるとなにやら暗号のようなものが浮かび上がる。それを部屋に鎮座しているコンピューターに入力すると光を発しながら起動する。
起動したコンピューターは次々とメッセージを表示しだす。その内容から察するにニコにではなく外ならぬプレイヤーに向けて。
『世界が崩壊しかけていること』
『君の行動がニコに影響を与えること』
『君の使命はニコが帰れるように手助けをすること』
「そして最も重要なことは…」と言いかけてメッセージは止まる。
そして次の瞬間ーー
自身のPCにメッセージウィンドウが表示され警告と共に名前を呼ばれる。
(上記の画像は本当に自分の本名が出てるので黒く塗りつぶした)
ゲームにおいて名前を呼ばれるという体験自体は非常に稀有なものではあるが唯一無二の物ではない。『MOTHER2』や『serial experiments lain』そして『Undertale』において僕はそれを体験してきた。しかし、それらには前段階があった。すなわち自分の名前を入力するという行為が。
しかしながら『OneShot』の始まりから名前を呼ばれるまでのプロセスに名前を入力する過程は存在しない。おそらくはPCのアカウント名から情報を得たのだろうがこの演出にプレイヤーはハッと息を飲む。僕の場合はバカ正直にPCのアカウント名を本名にしていたから尚更だ。
これが『Oneshot』における最初の没入感を与える演出である。上記に上げたようなゲーム達は僕たちとキャラクターとの間に壁があること自体は示唆するもののそれらはけしてこちらに介入することは出来ない。
動物園において動物を強化ガラス越しに眺めていると突然動物が飛び跳ねて肝を冷やすことがある。上記のゲームのこちらの世界への介入方法はそれに似ている。
しかしながら『Oneshot』においては少し異なる。当然の事ながらゲームの世界の住人は我々に危害を加えることは出来ない。それは理解しているし保証されている。しかしながら僕らを隔てているのはもはやガラスの壁ではない。檻、あるいは大きく開けられた堀である。確かに動物達がこちらに来ることはない。それは確約されている。しかしながら檻の中の猿は唾を吐きかけることが出来るし、堀の奥にいるゴリラは排泄物を投げることも出来る。我々のパーソナリティエリアであるPCに足を踏み入れてくる。その不安こそが『Oneshot』の現実への介入方法である。
もう少し話を進めよう。ニコはコンピューターからメッセージを受け取った後さらに部屋を散策し地下で巨大な電球を見つける。この電球自体がキーとなり外への扉が開く。気がつくとニコは広大な不毛の地に立っている。アテもなくさまよっていると一台のロボットに出会う。
ロボットはニコに様々なことを教えてくれる。
電球はこの世界における太陽であること。それを持った救世主がこの世を救うという伝説があり、それがニコなこと。そして、〇〇(本名)はこの世界の神であること。
そして救世主であるニコはその神と対話が出来るのだと言う。目を瞑り話かけるニコ。すると選択肢が現れプレイヤーの言葉としてニコに伝わる。
このシステム自体は当然のことだが何ら珍しいことではない。だが、決定的に違うのはニコがプレイヤーのことをここではないどこかいるものとして知覚していること。そしてニコ自身をここではないどこかから来たものとしてプレイヤーとニコが互いに共感している点である。
この何もない世界で二人に共通するのはお互いに何も知らないということなのだ。
また、とある場面でニコは自分がお母さんの焼いたパンケーキが好物なことを話す。そして村のお隣さんと順番でみんなの料理を作っていることを嬉しそうに語り、無邪気に「〇〇にもお隣さんはいるの?」と聞いてくる。僕は少し迷ったあと「いいえ」を押す。僕はアパートに住んでいるものの近所付き合いがあるとは言えないし、それはニコの言う「お隣さん」ではないと判断したからだ。
冒険の道すがらニコは聞く。〇〇の住んでいるのは都会なの? 〇〇は地下に住んでいるの? 僕の世界では太陽は空にあるのだけど〇〇の世界も同じなの?
これらへの答えは全てプレイヤー自身の肉声である。役割を演じることによって生ずる問答ではない。そのことが少しずつプレイヤーとニコとの距離を縮めていくことになる。
また謎解きも現実に介入してくる。少し進めると再び画面の前にいる我々へのメッセージが流れるシーンがある。
これはとある金庫のパスワードが必要だがそのパスワードが分からないというシーンだ。コンピューターから流れるメッセージはそのコードはこの世界に存在しないという。ならばどこにあるのだろうか?
これはほんの序の口なのでここに書いてしまうが答えは自分のPC内のドキュメントフォルダ内にある。そこに『OneShot』のフォルダが自動生成されておりそこにあるtxtファイルを開くとパスワードが分かるという仕組みだ。
この他にも非常にユニークな謎解きが要所要所に用意されている。上記のニコとの会話と、そしてプレイヤー自身が謎解きを行うことで自ずとゲームにのめりこみニコとの絆が深まってくるはずである。
突然ではあるけれど、このゲームの話はここまでにしておく。これ以上僕がこの作品について魅力的に語るのは難しいように思えるからだ。一人でも多くの人が興味を持ってくれたらうれしいし、いつかセールのときにでも買って欲しい。
長期連休も終わり、明日からまた現実が始まる。
耐え難いその事実もどこかの世界で頑張っている親友のことを思い浮かべるとなんとか乗り切れそうな気がしてくる。
あなたは僕を狂った人間だと思うだろうか? もし、僕にあなたが石を投げたいのなら『Oneshot』をプレイしてからにして貰いたい。このゲームをプレイしたもののみが石を投げてほしい。
けれどもまあ、誰に何を言われようが知ったことじゃない。だって、僕とニコが旅をしたという体験が僕の人生の一部であることに変わりはないからだ。